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あれこれ・あるがままに(第40回)    平成23年9月22日

  
豪 雨 災 害 と ダ ム
 
 大型の台風12号の接近に伴い、9月2日から4日にかけて西日本を中心に大雨が降り続き、紀伊半島では記録的な豪雨に見舞われ、河川の氾濫や土砂崩れが相次いだ。報道によると、紀伊半島3県の被害状況は、9月15日現在死亡57人(47)、不明26人(9)、全半壊304棟(216)、床上・床下浸水、6707棟(4908)という状況であり(カッコ内の数字は和歌山県)、その他土砂崩れによる土砂ダム(せき止め湖)が7カ所、また、JR紀勢線の那智勝浦〜新宮間の那智川橋梁(全長39メートル)が3分の2部分まで流出し、年内の復旧は困難であるという。
 被害者の方々に心からお悔やみとお見舞いを申し上げます。また一日も早い立ち直りを願う次第です。


 和歌山県では昭和28年の記録的豪雨により大水害が発生した。以後、国の方針はダムによる治水であり、大きな被害をもたらした紀の川、古座川、日高川、有田川、広川で次々とダムが建設され、古座川に七川ダム、有田川に二川ダム、広川に広川ダム、日高川に椿山ダムが完成した。また現在、紀の川で大滝ダム、切目川に切目川ダムが建設中であるが、大滝ダムは激しい反対運動と地すべり問題により事業は長期化している。切目川ダムは、平成21年の民主党政権によって事業見直しの対象ダムになったが、和歌山県の強い意向もあり、最近「継続」という方針が出たので、間もなくダム本体工事が着工される運びとなっている。なお、他に建設が予定されていた紀伊丹生川ダムは反対意見が強く建設中止になった。


 切目川ダムの建設計画というのは、切目川全体流域(流路延長約35q)の3分の2上流地点に重力式コンクリートダム(ダム高44.5m、堤頂長127.0m、総貯水容量396万?、※参照)を建設するという計画であり、総事業費159億円、洪水被害の軽減と印南町の水道用水の安全確保などを目的に、平成3年度に事業採択された比較的小規模のダムである。現在の事業費進捗率は約53%で周辺道路の整備が終わり、後は残工事費約75億円でコンクリートのダム本体工事を残している。
 ※ (Wikipedia)主にコンクリートを主要材料として使用し、コンクリートの質量を利用しダムの自重で水圧に耐えるのが特徴である。膨大なコンクリート量が必要であり、アーチ式ダムほどは条件は厳しくないものの花崗岩・安山岩等基礎岩盤が堅固な地点でないと建設する事が出来ない。
 ダムとしては最も頑丈な型式であり地震・洪水に強い事が利点のため、地震や降水量の多い日本では最も適した型式でもある。


 この度の豪雨災害の状況を見るとき、ジジこと私は切目川ダム建設計画は果たして必要かつ有用な計画なのか、疑問に思うのである。


 今回の豪雨による印南町域の被害は、切目川と印南川流域で合わせて61戸が床下浸水、18戸が床上浸水したという報道されていた。昭和28年の豪雨では同地域の被害は流出家屋72戸、半壊家屋101戸、浸水604戸という記録である。昭和28年のときと今回の場合では切目川流域の総雨量が大きく違ったのであろうが、今回の被害の程度が昭和28年のときと比べてはるかに小さいのは、昭和28年以降に実施されてきた河川改修の実績も影響しているものと考えられる。

 
 切目川ダムは果たして洪水被害の軽減に効果があるのだろうか。切目川ダムの建設地点は河口から上流域3分の2地点であるが、そこから上流域3分の1部分の流量を調節したとしても、ダムより下流(3分の2の流域)に4つの支川が合流している。また、最近よく発生する局地的豪雨がダムより下流域に集中した場合も考えなければならない。そのような状況を考えると、果たしてダムによりどれだけの洪水被害の減少につながるのか疑問である。今回の豪雨前にダムが完成していたとしたら、印南町域の上記被害がどれだけ減少したであろうか。洪水被害の減少に効果があるというのは机上の絵空事のように思うがどうであろうか。
 更に、今回の豪雨災害のように土砂崩れがダム上流域で発生した場合、ダムはたちまち土砂に埋まるのではなかろうか。せき止め湖ができて決壊した場合を想定すると、果たしてダムは持ちこたえられるのか、ダム自体の決壊に繋がる恐れがないのか心配である。
 

 ダムの建設は、ダム上流と下流の自然体系を分断し、河川の生態系を完全に分断してしまう。われわれ人間は自然に生かされている。「防災」は自然に対抗するのではなく自然の理にかなった方策によるべきであり、河川の治水はダムではなく、河川改修(護岸、拡幅、掘り下げ等)によるのが本道である。ある一定の条件を想定し、ダムと河川改修とではどちらがコストがかからないかという次元での検討は、想定外の事態が生じた場合はひとたまりもなく崩れ去り、それこそ「想定外の被害」という事態になるのではなかろうか。


 ジジが考えるに、そもそも「どちらがコストがかからないか」という立論の仕方自体が間違っている。国土の治山治水は、孫子の代を越え、国家千年の大計によるべきである。そして、ダムの建設によって自然に与える影響をマイナスコストに計上しない比較はナンセンスである。
 更に、ダムの有用性の立論は「ダムが予定容量を維持していく」ということが前提であるが、土砂堆積予測に土砂崩れを想定せずに「百年間に徐々に溜まっていく」という想定では、前提の立て方に問題があるのではないか、「想定外」の事態発生が心配である。


 台風13号に続く台風15号の影響により、今度は名古屋市内と淡路島の河川氾濫により広範囲の家屋が冠水し、9月21日の新聞見出しトップは「名古屋100万人避難勧告」とあり、またもや大規模な河川災害が発生した。そして、和歌山県では、なお、新宮、那智勝浦方面での住民の避難が継続し、熊野(いや)地区の土砂せき止め湖の決壊が心配されている状況である。
 国は、今回の和歌山県の豪雨災害を激甚災害に指定するという。このような災害状況を目にすると、「防災」ということを改めて考えさせられる。自然は美しさと優しさの反面ひとたび異常気象が発生した場合の破壊力はすさまじく、コンクリートで固めた「防災装置」は、果たして効果を発揮するのであろうか。自然現象の破壊力はこの度の東日本大震災で嫌と言うほど思い知らされた。
 今一度、自然と調和した、自然の摂理にかなう「河川改修」による治水政策を検討すべきでないのか。そして、防災面における県民の税金の配分については、「コンクリートによる防災」一辺倒ではなく、災害発生を前提としその災害が発生した場合の備えにも考慮する必要があるというのがジジの意見である。


 9月20日の和歌山県議会において、今回の豪雨による県内ダム設置河川等の氾濫に関する質問について、県当局は「(ダムの設置計画での洪水調節容量以上の)大雨にはダムや堤防などのハード整備だけでは限界がある。」と答弁したそうであるが(9月21日毎日新聞)、災害発生を前提とした備えが必要であるとするジジの考えの根拠の一つもその辺にある。


 ダム問題では、以前目にした「ダムと原発は衰退した村にやってくる」「目的はダムの有用性か建設それ自体か」という言葉が印象に残っている。切目川の建設続行の選択が、県民の生命財産の保全優先ではなく残る75億円の事業費を使い切ることが目的であってはならない。
 本年2月、大阪府において、和歌山県の隣接地域でダム建設が計画されていた槇尾川ダムが本体工事に着工済みにかかわらず建設中止が決定され、同河川の治水対策は「河川改修」という方針に変更になったとの報道があった。本体工事に未着工の切目川ダムの建設続行を考える上で参考にならないか、「庭の花おりおり」管理人・自称自然派ジジの思い。