和歌山弁護士会々報(第56号)   平成12年5月発行


          和 歌 山 大 学 で 講 義 し て 

                 田  中  昭  彦

 この原稿の1行目は、平成12年3月17日正午過ぎの12時5分、豊中南警察署からの帰り、南海電車サザン和歌山市行きの座席で書き始めた。座席番号1,今発車した。
 このように書き出したのは、実は、10日ほど前、広報委員会から、見出しの原稿依頼を受け、何度か”いやいあや”をしていたのであるが、先程、30数年前の大学時代に住んでいた、豊中南署から歩いて10分ほどの庄内幸町4丁目にあった文化住宅(当時、棟続きの借家をそう称していた)を訪ねたところ、なんとその文化住宅が今も借家として現役であったことで、大学時代がなつかしく胸がキュンとし、今様の大学生を相手にした経験を書く気力が湧いた、その源から出発したかったのである。(昨日、横綱若乃花が体力を補う気力の限界ということで引退を表明していた)
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 さて、和歌山大学経済学部の講義のこと。
 同学部では、大学活性化の一環として、会社経営者、自治体首長、各種専門職従事者等各分野で活躍している社会人を講師とする一講座が開設されている。平成11年10月1日からの後期授業では、弁護士を講師として、「日常生活と法」という科目が開設され、谷口昇二、中川利彦、松原敏美、月山純典の各弁護士と私の5人に講師の委嘱があった。
 講座は、講義時間90分一コマの14コマであり、講義内容は講師間で協議し、夫婦親子扶養・刑事少年・相続・会社関係・執行・交通事故・手形小切手・破産と決め、相続二コマと交通事故の一コマを担当した。
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 事前の学務課の説明によると、受講申込学生数は2回生以上の約500名ということであり、大きな階段教室での講義ということであった。私の講義のときは、いずれのときも実出席学生約250名程度であったか。
 講義開始は、空席多し、私語多しの状況で始まる。
 何とか興味を引きつけようとして、事例の説明に私流の冗句を入れるのであるが、これが世代間のズレがあるのか、受けないときの立ち直りの苦慮、階段大教室での孤独感、講演ではない講義と意識すると、なかなかのことで、冷や汗ものの90分である。
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 続いて、レポートのこと。
 『非嫡出子の相続分は、民法旧規定以来、嫡出子の半分とされてきたが、近時、かかる区別が、法律婚の尊重と奨励に基づいた合理的な区別であるか、憲法14条1項の「社会的身分」による差別かが問題とされている。あなたの考えを述べて下さい。』
 たいへん親切な出題で、3行でもまとめることができ、基本的人権の深みにまで踏み込むこともできる。
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 採点表とともに送られてきたレポートの部数は、なんと500通あまり、講義の実出席者はその半分程度と見えたのにである。1通のレポートに3分をかけるとすれば、1500分で25時間。しかし、実際のところは、出題とは何の関係もない内容のレポート、例えばあからさまにお世辞を述べてから(悪い気がしない)自分で勝手にテーマを設定したレポートなどもあり、予想より短時間で楽しく採点作業ができた。
 楽しかったのは、テーマが「嫡出子と非嫡出子の相続分」ということで、婚姻制度や男女関係の考え方に関わる問題であり、若い学生諸君が興味を持ったのか、熱心に考えたと思われるレポートが多かったこと、そして、レポートの中で、「非嫡出子」に関し、結婚、愛、愛人、不倫など男女のあり方を問題とし、そのうえで自分が嫡出・非嫡出の何れかの立場に立ったとき、どのように受け止められるであろうかと大いに悩んだことが窺われ、そのような若い学生諸君にレポートを通じて接することができたあことである。
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 なお、レポートを採点していて気付いたことは、この問題の結論を導く理由について、男子学生の方が比較的割り切りが早く、女子学生の方がより熱心に(母親とも話し合ったというレポートもあった)論じている傾向が見られたことである。
 最後に、このように多数のレポートを見ていると、何通かは字が光っているように見えたことがあった。全てのレポートはワープロ文書であるが、つまり、内容がたいへんよくできているので、読みやすく、嬉しく、長時間の作業の中でオアシスのように見えたのである。