和歌山弁護士会々報(第39号)   

              平成3年12月発行



             花    紀    行

  人の趣味というものはさまざまで、その虜にになる切っ掛けも実にさまざまである。犬が

 好きな人もあれば嫌いな人もあり、およそ運動神経に無縁と思える人でも、さまざまな理

 由からゴルフに手を出した途端、その後の『入れ込み人生』が始まったという人もある。

 それが趣味である以上、さまざまであることに意味があるわけで、価値観や似合う・似合

 わない、ということから全く自由である。貴方は貴方、私は私、であり、どうでも良いことだ。

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  僕は花が大好きである。花にかかわるいろいろなことに興味があるが、今、野草やラン

 科植物、サボテン類などの栽培を楽しんでいる。種を蒔き、株を分け、花が咲いたら、愛で

 て・眺めて・香りを嗅いで・誉められたら悦にいる、という趣向である。

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  本誌の編集者から求められたのは、『旅紀行』である。これを同義に近い『紀行記』と読

 み変え、その『紀行』の意義を自由に解釈して『花紀行』とし、かくして、テーマと全く離れる

 が、紀行文に違いはない、とこじつけよう。

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  まずはじめに、今これを書いている日(3,11,3)の我が庭、にわといっても坪庭という

 ほどの広さであるが、ここに咲いている花や実。

  最中のもので、ノギク、オキナワギク、ツワブキ、ハナタバコ、ダインモンジソウ、盆栽仕

 立てのノウゼンカズラ。盛りを過ぎたもので、ホトトギス、ハマナデシコ、チョウセンアサガ

 オ、クジャクソウ、ツユクサ、ミズヒキソウ(赤・白)、それに今話題のトリカブト(写真)など。

  今、実をつけているのは、千両、万両、百両金(カラタチバナ)、十両金(ヤブコウジ)、ピ

 ラカンサ、ムラサキシキブ、ヒメザクロなどである。

  そして、これから楽しみなのは、ラン科植物であるが、洋ラン系はバンダの三分咲きを除

 き、シンピジュームはまだ蕾が固い。日本・中国ラン系のうち、辺塚ランはその特徴である

 垂れ茎に満開の花をつけ、その妖艶な姿に自ら酔っているようであり、夏ランである玉花

 ランは咲き残りの花で強い芳香を放ち、今だに人の気を引いている。ところで、これからの

 出番はなんといっても寒ラン・春ランであり、寒ランは今やちらほら咲きである。

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  寒ランと出合ったのは、7年程前になる。それまで洋ランのシンピジュームの大柄で陽光

 によく映える美しさに魅了されていたが、寒ランのほっそりと楚々とすっきりと立ち上がる上

 品な姿と、そのような立居振舞なのに夕方から朝にかけて媚びるかのような芳香を漂わせ

 る姿に、初対面で心を奪われた。以来、徐々に鉢数をふやし、失敗を重ねながら、現在十

 数鉢を愛培している。

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  サボテンの仲間も数鉢育てているが、月下美人とは十年程前の出合である。月下美人

 は、メキシコから南アメリカのブラジルまでかなり広い範囲に分布している原種のクジャク

 サボテンである。この花の魅力は、大ぶりのの白い花の美しさ、芳香、一夜限りの花の

 命、そして、その和名の面白さにあるが、咲いているときの隆々とした上向きの花姿と咲

 き終わった後のみじめな花姿との対照の面白さは、話題にせずにはいられない。

  月下美人を初めて咲かせたころ、何回か酒と馳走を用意して知人を招いたことがある。

 その招待の辞は、「今夜、うちに絶世の美人が来るので、一緒に酒を飲まないか」という

 ものであった。やって来た客の反応が面白い。ある者はその美しさに見とれ、ある者は

 そこに月下美人が来ているのに、美人を待ちかねて酔っぱらってしまうという塩梅である。 

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