週刊報道ワカヤマ Y23(2005年7月22日)                              


         時   事   折   々 (第6回)    
 
   

            憲法9条は人間社会が生み出した崇高な知恵
                                   
                                 (表題 編集人藤原無我氏)


                  時 事 折 々     田 中 昭 彦

 『夏は昼。蝉しぐれを聞きながら冷やソーメンを食すもよし、フカのあらいに酢みそ、ハ

モの湯引きに梅肉もよし。一缶の缶ビールは言うまでもなし。』
 
 千年の昔、若手女流作家は『夏は夜。月のころはさらなり、やみもなほ蛍飛びちがひた

る。雨などの降るさへをかし。』と詠んだ。後者の光景は、エレキのあかりが無く天然温度

の中の情景であるが、前者の時事(爺)の心と似たものがあるやに思う。両者とも、手の

甲にとまる蚊を叩きつぶす光景は見えても、殺戮とは無縁の平和な営みが見えるのであ

る。

 少しビールが効き、蝉しぐれとソーメンをすする音のハーモニーに身を委ねていると、突

然、食卓の前席に座る高齢婦人が「世の中、人はどうしてこうも争いをし、殺し合いがや

まないのか?」と話しかけてきた。折しも、昼のテレビニュースは、イギリスで起きた同時

多発テロの悲惨な状況を報道していた。ギク!、これは難しい。そういえば、千年前もそ

の後も戦争が途絶えたという時代はない。どうして!。
 
 時事(爺)の説によると、神ならぬ人の世界は「絶対」ということはなく、常に自・他に「違

い」があることに淵源している。すなわち、人は自・他の違いについて常に無意識下で妥

協をしながらバランスを取っているが、一方本能的に「同じ」であることの安定を求めてい

る。よって、このバランスが崩れたとき、ミクロでは兄弟喧嘩・夫婦喧嘩があり、マクロで

は民族紛争・宗教紛争がある。そうすると、この説では人間社会である以上戦争は必然

ということになるが、全く悲観的にならなくともよい。それは、兄弟・夫婦の行動を観察す

ると理解できるように、「足りている」ときには紛争が少なく、足りないときは「分ける」とい

う知恵と「諦め」の意識が働くのであるが、そこでは「哲学」と「宗教」が重要な作用を営む

のである。知恵を働かせ、そして「色即是空、空即是色」を意識すれば、地上から一切の

苦役が無くなるのであるが、そうは上手くいかない。

時事(爺)の説によると戦争は無くならないのであるが、だからといって、憲法第九条の

「戦争放棄条項」は絶対にいじってはならない。現実との乖離や制定過程を云々するが、

右条項の価値観は神ならぬ人間社会が生み出した崇高な知恵であり哲学として正当性

を有しているのである。